『料理通信』は楽天マガジンに登録して初めて知った雑誌です。書店で見かけた覚えがないんですよね。
発行しているのは、その名もずばり料理通信社。プロフェッショナル魂をびんびんに感じる一冊と言えましょう。
率直に言ってしまえば、読む前は“少し難しいんじゃないの?”という先入観がありました。
たとえば『dancyu』の特集は、今月号が「おにぎり」、先月号は「とんかつとステーキ」だったのに対して、この『料理通信』は「小さくて強い店のレシピ集」、「伝統に学ぶコツとレシピ」、「世界が夢中!“発酵”レッスン」など。
単純に“わー、とんかつ、いいね~♪おいしいお店が載ってるのかな?”という感じで手を出すことができないというか。
そして、『きょうの料理』のように家庭料理に役立つという感じもしない。もちろん『オレンジページ』あたりの料理特集とは比較になりそうにない。あくまでイメージですが、そんな風に思っていました。
はたして、その印象はどう変わるのでしょうか。そもそも素人が読んでも理解できるものなのでしょうか。
少しドキドキしながら読んでみました。
『料理通信』2018.11月号目次
ぎっしり詰まってます。これは嬉しい。
特集●「小さくて強い店」のレシピ集 Vol.2
わざわざ“Vol.2”と表記されていましたのでバックナンバーを見たところ、ちょうど1年前にも同じ特集が組まれていました。きっと好評だったんでしょうね。
ですが「小さくて強い店」って、具体的にはどんな…? と思ったら、いわゆるワンオペでかつ極小店舗、という意味で使われているようです。
少し前に、牛丼チェーン店でのワンオペが取りざたされましたねぇ。あれは主に勤務シフト上の問題だったのではないかと思うのですが、自営の飲食店でワンオペというのもなかなか…と言いますか、かなりツラそうな。
おまけに、メニューがほぼ固定されている牛丼チェーン店とは違って、メニュー数が多かったり調理の工程が複雑だったり、仕込みに時間がかかったりしますから、その大変さはちょっと私の想像を超えています。
反面、店舗が小さいということは、目の行き届きやすさにもつながるのかな…とも思いますが、その辺りはどうなんでしょうか。
そんなことを思いながら読みました。
結論から言って、いやー、びっくりしました。
紹介されていたのは主に席数が9席から15席くらいの店舗。確かに小ぢんまりはしているでしょうが、注文が立て込んでくるとちょっと大変そうな感じがします。
と、いうのも提供されているメニューがまた、美味しそうなものばかりですから。
ピッツァマルゲリータ、ラム肉のニラミントソースがけ、本格セビーチェ(ペルー風鮮魚のマリネ)などなど。
それなのに、ひとりでお料理を作って、出して、お会計して。さらに後片付けをして、翌日の仕込みをして…って、できるんだ!? と。
しかも、開業に当たっては、自分で内装や配管をした店主さんも少なくない。そしてその内装がまた、センスがいいんだなぁ。やはり美味しい料理には美しい盛り付けが欠かせないように、料理人の方たちには美的センスも備わっているんですねぇ。
そして、この特集で一番びっくりしたのは、それぞれの店舗の厨房のレイアウト、見取り図はおろか、開業に際してかかった金額などのデータが公開されていたことです。うわぁ、すごい。トップシークレットだと思うのですが。
この特集は、今後、自分のお店を持ちたいと考えている方々にとっては非常に役に立つこと間違いなしです。
お店の立地条件(東京以外のエリア、倉敷や山梨の北杜市)や建物自体のハンデ(一軒家の倉庫での開業や、設備の増強が図れないなど)があっても、素敵なお店はできるし成功するという実例が載っているわけですから。
単純に食べる側として読んでも、それぞれのお店で出している工夫に満ちたお料理のレシピを読むことができます。実際にお店を訪れて食べるものには及ばなくても、自分で作ってみることはできそうなんですよね。
極小店舗ゆえに厨房に入れることのできる機器は限られており、中には一口のガスコンロを使用しているところもあるように、家庭のキッチンでも調理が可能なものも多いということのようです。
プロらしい設備と言えば、真空包装機や真空低温調理器などでしたが、これらは主に下ごしらえをして保存するために使用されているものですから、家庭ではなくても大丈夫だと思います。
はー、やっぱりプロは凄いなぁ、と改めて思いました。
また、「小さくて強い店」の仕入れ術・仕込み術も非常に面白い記事でした。
つい先日閉場してしまった築地場内市場での仕入れの一部始終に密着、さらにその後の下ごしらえ現場もレポートしたものです。
買い付けをするのは「チニャーレ エノテカ」の東森(とうもり)シェフ。
少しびっくりしたのが、調理用の資材も築地で仕入れていたこと。プロ仕様のキッチンペーパーというものがあるんですねぇ。へぇぇ。
そのキッチンペーパーは、早速仕込み術編でイワシのマリネをつくるのに使用されていました。調理にも、食品の保存にも使えるのだとか。
このマリネのレシピもちゃんと掲載されているのがまた素晴らしいと思います。
本当に、隅から隅まで知らなかったことが詰まっていて読み応え充分。満足です。
連載〇料理上手と呼ばれたい~パン・ペルデュ(フレンチトースト)
第2特集に「焼酎ニューウェーブ」なるこれまた力の入った記事があったのですが、残念ながら私は下戸なので…
折角の熱量も、受け止めることができず非常に残念です。
『dancyu』の日本酒特集やワイン特集も、スルーせざるを得ないんですよねぇ。
けれども、この『料理通信』、連載記事も非常に充実していましてまだまだ楽しませてくれました。
「BOOK&CULTURE」コーナーも、すべて料理に関するものばかり。徹底してます。
中でも気に入ったのがこの「料理上手と呼ばれたい…」です。
映画コメンテーターの有村昆氏が、映画にまつわる食べ物の作り方を一流シェフに教わるという企画記事で、本号で取り上げられたのはフレンチトースト。
ですが、教わるのが「ザ・ペニンシュラ ブティック&カフェ」の綱島シェフときたら、それはフレンチトーストという概念を越え、もう少し別の何かへと進化してしまうのでした。
そもそも使うパンがマスカルポーネを練りこんだパン・ド・ミ。まぁ大雑把に言えば高級食パンでしょうか。これを切って、90℃のオーブンで一時間焼いて乾燥させるところからスタートなのです。
いきなりハードルが高すぎない?
けれども、シェフの断言するところによれば、このひと手間で味が格段に変わるのだとか。ははぁ…やってみる価値はあるのか…
と心を奮い立たせつつアパレイユ、パンをひたすための卵液の作り方に移ります。
卵黄と卵白を分け、卵黄にグラニュー糖だけを加えて混ぜる。ざらざらがなくなったら、そこに比重の高い生クリーム、牛乳の順に入れてシノワ(漉し器。目の細かいざるなど)で漉す、と。
まぁこれなら何とかできそうな…順番を守ればいいだけですし…
次に、乾燥させたパンをアパレイユに浸します。
バットに並べたパンにアパレイユを注ぎ、指で押さえてしっかり染み込ませて上下を返します。
冷蔵庫に入れて24時間おきます。
………はい?
一瞬思考が停止しました。冷蔵庫で24時間。
いくらなんでも、雑誌なんかでちょいちょい見かけたことのある、ブランチメニューにフレンチトーストを…という休日ののんびり加減からも遠く離れているのではないでしょうか。
いわばガチ。
そうです、このメニューはガチで美味しいフレンチトーストを食べたい!!もしくは食べさせたい!!という欲望渦巻く肉食系レシピに相違ありません。恐ろしい…恐ろしすぎる…
怖いもの見たさで続きに行きましょう。
工程としては難しくありません。
耐熱容器にアパレイユをたっぷり吸ったパンを入れ、さらにパンが半分浸るほどのアパレイユを注ぐ。160℃のオーブンで40分程度を焼く。パン全体がふっくらとしてきたら焼き上がりの目安とのこと。
さらに表面にシナモンシュガーを振り(省いても可)、焦げ目をつける。手段としてはサラマンダー、オーブンの上火、魚焼きグリル…とあるので、ご家庭でもできますよということを強調されている感があります。それがかえって怖い。
焦げ目がついたらデコレーションです。アイスクリーム、ブルーベリーとラズベリー、粉糖が使われていました。この辺りはアレンジが利きそうですね。
ここで完成と相成ります。お疲れさまでした。
食べた感想は
パンはアツアツ、アイスはひんやり、周りはサクサク、中はじゅわっと柔らか。
うぅ~ん、美味しそう。
有村氏によると、砂糖をたくさん使っているので重いのかという印象があったけれどもすごく軽いとのこと。
最初はこんなの本当に自分にも作れるの? と思いましたが、いい材料を使い、時間をかけて丁寧に作れば必ず報われるタイプのレシピなのかもしれません。
少なくとも、いいレシピを覚えました。話のタネにもなりそう。もちろん、機会があれば「ザ・ペニンシュラ ブティック&カフェ」に食べに行くというのもありですよね。
『料理通信』2018.11月号 感想とまとめ
もっと早くから読み始めればよかった、と思いました。マニアックはマニアックですが、プロでなくても楽しめるタイプの専門誌です。とは言え、書店ではなかなか目にする機会がないかもしれません。
けれども、楽天マガジンなどで電子版を読むことができる人にはぜひおすすめしたい一冊です。美味しいものが好きだったり、料理にまつわるちょっとしたうんちくが知りたい人ならきっと楽しめると思います。
次号の特集は「世界が愛する粉ものレシピ50」、「シェフが通うディープ食材店ガイド&レシピ」。
あー、タイトルから想像するに間違いなく面白いわ、コレ。
実際の内容が、期待通りかどうかを楽しみにしつつ、次号も読みます。楽しみが増えて嬉しいですねぇ。
2018.10.6配信開始//2018.11.5配信停止
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